Mon Souvenir de la France

フランス留学で学んだこと・感じたことの覚え書き

フランスの労働法改正・日本人的なわたし

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フランスではストライキやデモが盛んだ。

「ええ!今日ストライキしてるの?!」と友達に言ったら、「フランスへようこそ」なんて言われたことがある。
ストライキの中でも交通機関に影響するものは特に心がくじかれる…

フランス人にとってストライキは日常茶飯事のことなのであろう。

そもそもなぜストライキが起きるかと言うと、従業員の賃金増加や労働環境改善に対する抗議をするために行うものがほとんどだ。

今年の3月には2回ストライキとデモが起こったのだが、それらの目的は La réforme du code du travail (労働法改正)であった。

労働法改正とは??

労働者と雇用者の関係を良好に保つべく、幾度かの労働法改正は今までも行われてきた。
1936年には労働時間が週40時間へ
1998年には労働時間は週35時間へ

そして今回、この労働法が再度変わろうとしているのだ。
今回の改正は「失業率の軽減」をねらっているらしい。
しかしこれは建前であって、蓋を開けてみたら雇用者に有利・労働者に不利な内容なのだ。

フランスのサラリーマン

フランスでは、働く前に必ず契約書にサインをする。
その契約書のサインには二種類あり、それぞれ
CDD(Contrat à Durée Déterminé)固定期間契約
CDI(Contrat à Durée Indéterminé)非固定期間契約
に分かれ、CDIの方がサラリーマンとみなせる。
フランス人の85%はCDI契約だそうだ。

この契約により仕事内容・賃金・労働時間などの条件が決められる。

ではでは法に基づくフランスのサラリーマンの一般的な労働条件を見てみよう。

労働時間:週35時間/日10時間以内
*35時間は越えてはならない
*会社の特別な判断がない場合、10時間以上働いてはいけない
*会社がそれ以上の労働が必要と認めた場合も12時間まで

この労働時間は厳重に守られているらしい。
よってフランス人で残業する人はほとんど居ないだろう。

残業した場合:残業時間によって残業代が出る(年内支払)
*8時間まで:賃金の20%
*8時間以上:賃金の50%
*しかし会社の指針次第で、これらの数値が最低10%に下がることもある。

休暇:ヴァカンスと冠婚葬祭の二種類
*一年間で5週間分の有給休暇が取れる(ヴァカンス)
*結婚・PACS休暇:4日
*出産:3日
*身内の不幸:2日
*子供の結婚:1日

失業手当:勤続年数によって差はあるがしっかりと払われる
*法的に定められた失業手当
*労働裁判の調停判事によって額が決められる失業手当
*雇用者は上記のCDD/CDIのルールに厳重に従って失業手当を与える義務がある

このように、現在は労働者に対してそんなに悪くない条件なのだ。
しかし労働法改正の手にかかるとどうなるのだろう?

変更後

先にも述べた様に、この改革の一番の目的は「失業率の軽減」である。
労働者を解雇する時、雇用者は上記のCDD/CDIのルールに厳重に従って失業手当を与える義務がある。

しかしどうやらこれがやっかいらしい。
雇用者曰く、この契約内容が

お堅くてヤダ!

らしいのだ。

たとえ会社にとって雇用が必要な場合でも、後から解雇させるとなった場合契約内容が固すぎると手続き諸々が大変。だから新規雇用すら躊躇してしまうとのこと。

そのため雇用者はこう求める

もっと柔軟性のある契約内容を!

そうすればもっと雇用数を増やすよ!
だってそうすれば怠惰な労働者を解雇しやすいし、会社が経営難になってもリストラ出来るしね

…こういった雇用者側の要望を受けて、この度労働法が改正されるらしいのだが、この内容が私から見てもあまり平等ではない。


【変更後】

労働時間:一日10時間以上労働が可能・しかし12時間以内まで(これはそこまで大したことない)

残業手当:残業時間に関わらず会社は利率を最低10%まで下げることが出来る。また年内に支払わなくても良い。3年以内に支払う。

休暇:会社側の判断により伸ばすことも縮めることも出来る

失業手当:法的な失業手当は変わらないが、調停判事により決められる額には上限が設けられる

どうだろうか?
雇用者側が権利を持ちすぎているようにみえる。

この改正が執行されれば、雇用数を増やすことが出来ると政府・雇用者側は言っているが、実際に雇用されているフランス人たちは「解雇されやすくなった」とかなり不安視している。

そのため、1ヶ月に2回も大型のストライキとデモが私の住む街で起こったのだ。
私の住む街だけではない、ニュースを見ればフランス全土で行われていることが分かる。


日本人的なわたし

『ちゃんと働けば解雇されることもないだろうし、法律が変わっても自分次第でこの労働法改正から受ける影響はプラスにもマイナスにもなりうる。
要は、働く姿勢と意識が大事だ。
法が変わっても自分次第ということで不満はありつつも受け入れて働くかなぁ…』

と、この労働法改正について知れば知る程こう思った。

いかにも保守的で自分の意見を主張しない。
ああ、自分の心の根っこはやっぱり日本人的だ~(笑)と思った。

しかしフランス人は違った。
たとえこの改正案が無効化されることがなくても、デモやストライキを通して己の意思をはっきりと主張している。それもかなりの大人数の人間がだ。

日本人は労働者ストライキなんて滅多に無いだろう。なぜだろうか?
『自分の都合ために他者(客など)を迷惑させるわけにはいかない』
という考えが日本人の性格上、根底に潜んでいるからかなぁと私は思う。
これもこれで謙虚で真面目で良いと思うが

しかしフランスでは
『社会的に迷惑をかけてこそ自分たちの主張を最大限発信できる』
という考え方があるのかもしれない。

さすが市民の手で革命を起こした国だ。


もちろん、日本でストライキは無くてもデモなら見たことがある。
今までは「何やってんだ?」と少々変な物を見る感覚で捉えていたが、今思えば、人間らしく自分に素直かつ自分の意見を持っていて良いじゃないかと思った。

少なくとも、日本の社会に無関心でなる様になる精神でプラプラしていて、政治に疎く自論など皆無だった私なんかより、よっぽどしっかりしている…。